SKINCARE

アトピーのためのスキンケア

監修:羽白 誠 (はしろ まこと)先生

はしろクリニック 院長

Q. わたしたちの肌(皮膚)は、どんな働きをしているのですか?

A.皮膚の表面は何層にも重なった細胞からできていて、外部の刺激から守ってくれています。

肌の一番外側にある、厚さ0.01mmの層のことを表皮といいます。一般には、表皮そのものが物理的にバリアとしてはたらいている、と考えている方が多いようですが、医学的にみると、その表皮の中の組織の組合せと、それぞれのはたらき、そして相互作用まで含めてバリアとしての機能が成り立っていると考えられています。角質層を構成するのは、細胞と、細胞と細胞のすき間を埋めるセメントのような役割を持つ脂質(細胞間脂質)です。細胞間脂質にはいくつか種類がありますが、特に知られているものとしてセラミドがあります。また、同じように角質層にある天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor)も、肌をみずみずしく保つことに役立っています。


表皮は、バリアとして空気中の刺激物や異物が体内に入ってくるのを防いだり、逆に皮膚の内側にある水分が失われないようにしたりする、重要な役割を果たしています。

しかし、遺伝的な体質やストレス、気候変化、環境などさまざまな要因によってバリア機能が低下することがあります。バリア機能が低下すると、水分が失われ、乾燥肌またはドライスキンと呼ばれる状態になります。(医学的には「乾皮症」と言います。)さらに乾燥が進んでバリア機能がより一層低下し、乾燥を繰り返す肌は、外部からの刺激をたくさん受けやすくなり、「超乾燥肌」と呼ばれることもあります。


一般的に、アトピーの患者さんの肌には角質層のセラミド量が少なく、必要な水分量を溜め込むことができていないことがわかっています。そのようなお肌においては、セラミドを配合した保湿剤を使うなどのケアが必要です。

Q. アトピーのスキンケアで、どんなことに気を付ければよいでしょうか?

A.まず、保湿の習慣を身につけましょう

アトピー肌のスキンケアで最も重要なのは、保湿です。アトピー肌は、常に水分が失われやすい状態にあります。肌に水分を供給しつつバリア機能を補強して水分をキープできるように、毎日1~2回、定期的に顔とからだを保湿する習慣をつけましょう。肌にやさしく、保湿機能が高い製品をしっかり使い続けることによって、低下している肌のバリア機能の維持、回復ができる可能性もあります。

アトピー肌の方におすすめの保湿剤は、低刺激性で高保湿の保湿剤です。また、サンプルやトライアルセットなど肌に合う化粧品かどうかを確認してから使うことをお勧めします。

保湿剤を塗るタイミングに決まりはありません。しかし、お風呂に入った後や朝の洗顔の後は特に肌が乾燥しやすいので、速やかに保湿剤を塗ることをお勧めします。その他、眠る前、皮膚科でもらった軟膏を塗る時など、都合のよいタイミングでかまいません。塗り忘れを防ぐためにも、毎日1~2回、保湿剤を塗るタイミングを決めておくとよいでしょう。

保湿の大切さに年齢は関係ありません。しかし加齢とともに皮脂や汗を分泌する能力が少しずつ低下していって、水分量が常に低い状態になることが多く、そのような状態を医学的に「老人性乾皮症」と言います。入浴後はもちろん、乾燥を感じたときなどには保湿剤をこまめ塗ることで、症状をやわらげるようにしましょう。


Q. アトピー肌の洗浄で気を付けることは?

A. 肌にやさしい洗浄剤を使い、こすらずなでるように洗いましょう。

アトピーで肌がいたんでいる時に洗浄するのをためらう方も多いかと思います。しかし、自然に出てくる汗などと外気のちり・ほこりが混ざった汚れがアトピーを悪化させてしまうこともあります。さらに、かいてしまうことによって表面が傷つき、一層肌のバリア機能が低下してしまうのは何としても避けたいところです。

そこで、日々の洗浄を上手に行うことがとても大切になります。例えば、最近では感染症予防のために一日に何度も手洗いをすることが勧められていますが、洗いすぎることは弱くなった肌にとってはリスクとなります。バリア機能を今以上に悪くしないよう、肌をゴシゴシこするような洗い方は避けましょう。水を含ませ軽く泡立たせた後、手や柔らかい素材のタオルなどでやさしくなでるように洗うことをお勧めします。

アトピーや乾燥肌のスキンケアとして、洗浄に使うのは石けんでもジェルやクリームなどの液体ソープでも大丈夫ですが、また、強い洗浄成分(界面活性剤)は、汚れを落とすという点では優れていますが、肌を守る意味では逆効果となりますので、肌にやさしい敏感肌用の洗浄剤を選びましょう。選び方のポイントとして、肌に近い弱酸性(pHが4.5~6)かどうか、ラベルで確認してみてください。石けんにしても液体ソープにしても、すすぎ残りがあるとかぶれやかゆみの原因となるため、よく洗い流すことが大切です。あと洗浄剤に保湿成分を含んだものもありますので、そのような洗浄剤を使うのもよいと思います。


Q. 季節によって、アトピーのスキンケアのために気を付けるべきことを教えてください。

A. 春から夏の高温多湿、秋から冬の乾燥と低温、それぞれに注意が必要です。


春から夏のアトピーは、まず汗の対策が大切です。お家にいるのであれば、定期的にシャワーをするなど汗を洗い流す保つことで、かゆみなどの辛さを抑えることもできます。また、この時期は紫外線が一気に増え、肌の刺激となってかゆみや赤味を悪化させるきっかけになります。紫外線は、5月から8月の午前10時から午後2時頃の間が最も強くなるといわれていますので、外出時は万全の対策をとりましょう。


一方、秋から冬は空気が乾燥して、皮膚温も低下し、脂腺の分泌機能も低下するため、肌のバリア機能が一層悪くなり、刺激が加わるリスクが高まります。この季節を快適に過ごすためには暖房器具がかかせませんが、長時間使うと空気の乾燥を強めるので、対策としては保湿をしっかり続ける、それに加えて、空気清浄機などで湿気を保つ工夫をするのもよいでしょう。


また、まだ試してみたことのない方におすすめしたいのが、季節による保湿製品の使い分けです。いつも使い慣れている製品があるのもよいことですが、夏の高温多湿で軟こう、クリームのベトつきが気になる、という方もおられると思います。その場合、季節によって使い分けるという方法があっているかもしれません。春から夏は、より水分が多めの製品を、秋から冬は油分の多く、肌の表面に膜を作る機能が高いものを使うなどいかがでしょうか。


肌の状態は人それぞれ。しかも季節により、体調により刻々と変わるものですので、自分でも意識を高めて、アトピーとの付き合い方を身につけていきましょう。

羽白 誠 (はしろ まこと)先生

はしろクリニック 院長

1986年に大阪大学医学部を卒業、1991年に同大学大学院博士課程修了により医学博士。2001年より国立大阪病院皮膚科部長、2004年より大阪警察病院皮膚科部長。また2008年から4年間は神戸女学院大学人間科学部非常勤講師兼任。2010年よりはしろクリニック院長に就任し、現在に至る。なお2005年より現在まで大阪大学大学院医学研究科招聘教員も兼任。学会資格などに日本皮膚科学会認定専門医、日本心身医学会心身医療科専門医・指導医、日本心療内科学会登録医などを持ち、日本皮膚科心身医学会理事長も務めている。